抑うつ状態とは何か
うつや双極性障害等の病気の種類に関わらず、抑うつ状態が長く続くのは本当に辛いものです。前回のブログで、「抑うつ状態」とはうつや双極性障害といった「病気」の「症状」の一つであるという説明をしました。
ところで、「抑うつ状態」とはどんな症状なのでしょうか?症状とは、病気が原因で引き起こされる身体反応のことでしたね。
実は「抑うつ状態」とは、それ自体が複数の症状を包含した表現なのです。つまり「抑うつ状態」では複数の身体的・精神的反応を示します。ここでは、その中でも筆者が経験したことがある代表的なものを列挙します(これ以外にも頭痛やめまいなど様々な症状が報告されています)。
- 気分の落ち込み
- 意欲の低下
- 思考力・集中力の低下
- 自尊心の喪失
- 自殺願望
- 食欲の低下または増加
- 睡眠リズムの異常
- 倦怠感・疲れやすくなる
- 性欲の低下
- 便秘
ところで、このブログは「患者の関係者(家族、友人、同僚など)」も読者になっていただけることを前提にしている、と「はじめに」でも述べました。
実際に「抑うつ状態」を体験したことがない方は、これらのような症状を文字として列挙しても、何がどれくらい辛いかがイメージできないと思いますので、筆者の例をいくつか挙げてみたいと思います。
気分の落ち込み
とにかく憂鬱で悲しい気持ちになります。生きること自体が苦痛に感じられ、自殺願望に繋がることもあります。
筆者は最近、自分の気持ちの安定や生きる意思の向上のため、藤田麻衣子さんの「あなたは幸せになる」という曲を良く聴くようになりました。この曲は自分の病気を理解してくれる人、自分をサポートしてくれる人があまり多くない筆者にとって本当に頼りになる応援ソングなのですが、「気分の落ち込み」が激しい時に聴くと、逆にその歌詞を聞いていて絶望的な気持ちになることがあります。
例えば「あなたは幸せになる だってつらいこと たくさんがんばった」という歌詞があるのですが、気持ちが安定している時は前向きに受け取れるこの歌詞が、気分が酷く落ち込んでいる時には「こんなに辛いことを沢山頑張ってきたのに、全然幸せになれないじゃないか!」という風にしか捉えられなくなってしまいます。特に酷い時には、それが原因で涙が止まらなくなってしまいます。
意欲の低下
「低下」と書きましたが、実際は「喪失」に近い感覚です。本当に何もやる気が起きなくなります。
筆者が初めて休職の診断を受ける直前のことです。会社には何とか這いずって出社したのですが、パソコンの電源を起動してから何もできません。まずメールチェックをしなくてはと思うのですが、メーラーを起動してから一通目の未読メールを開くまでに30分かかってしまいました。
意欲の喪失対象は仕事に限りません。筆者は暇があればゲームばかりして生きてきた人間です。学生時代(特に大学生の頃)は宿題をしている、友人と会っている以外の時間はほぼゲームをし続けていました。食事や歯磨きもゲームをしながら、という位のゲーム好きです。社会人になってもあまり変わらない生活を送っています。
そんな筆者が、「抑うつ状態」が出てしまうとゲームすらできなくなってしまいます。やりたいと思わなくなるどころか、無理してゲームを起動してもゲームをやること自体が苦痛で全く先に進めなくなります。
思考力・集中力の低下
筆者は人並み以上には頭の回転が速い方だと良く言われます。相手が言おうとしていることを、相手が説明しきる前に理解してしまって結論を私が先に言ってしまうので傾聴力がないなどと、ビジネススキルのテストなどでよく指摘を受けていました。
そんな筆者ですが、「抑うつ状態」が出ると何も考えられなくなります。相手の言っていることを話し終える前に理解するどころか、話の内容を理解するのにもものすごい体力を使うようになってしまいます。食べるものを買うためにスーパーに出かけても、何を食べるかを決断することさえできなくなり、何十分も総菜コーナーの前で立ち尽くしていたこともありました。
自尊心の喪失
自分の将来に希望が持てなくなります。また、このような状況になってしまったのは自分のせいだと必要以上に自分を責めるようになってしまいます。自殺願望に発展することもあります。
やる気もなく、何も考えられないのだから、悲観的なことも考えられなくなってくれればいいのですが、困ったことにこういった悲観的な感情は逆に次々と頭の中に浮かんでくるので、それがものすごく不思議なことだと感じています。
自殺願望
恐らくこの症状は、他の症状によって自尊心が深く傷つけられた結果として発生するのだと個人的は思っています。
自分の無力さ、将来に対する絶望、自責の念などの様々な負の感情が渦巻いた結果、自分を大切にしようという感情がどんどん希薄となり、最後には自殺したくなるという流れです。
筆者自身も「抑うつ状態」が強い時には、道路でこちらに向かって走ってくるトラックや、駅のホームでやってくる電車に飛び込んだら楽になれるかなあ、なんて考えてしまうことが度々あります。一番危なかった時には、遺書を書き終えて、マンションの自宅(9階)からもう少しで飛び降りようかというところまで追い詰められたことがありました。この時は夜の20時くらいだったのですが、電話カウンセリングにたまたますぐに繋がり、カウンセラーの方に話を聞いていただけたおかげで何とか気持ちを落ち着けることができましたが、あの時カウンセラーにすぐに電話が繋がらなかったら、今頃どうなっていたかわかりません。
食欲の低下または増加
これも大変不思議なことなのですが、「抑うつ状態」になると食欲がまったくなくなってしまう人と、食欲が異常に促進される人がいるようです。
筆者は前回のブログでも少し説明した通り、食欲が増加するタイプです。常に何かを食べていないとイライラして我慢できなくなります。一日三食、満腹になるまでがっつりと食事をしているのに、毎日おやつとして明治の「エッセルスーパーカップ」を五個食べるなどということは日常茶飯事でした(ちなみにエッセルスーパーカップは一つ当たり約300キロカロリーあります)。
これについては別の機会があれば説明したいと思っていますが、「糖質を取るとまた糖質が取りたくなる」という糖質の中毒性も関係していると思われます。食事で糖質制限を始めてからは、こういったバカ食いを起こすことは少なくなりました。どうしてもおなかが減ったときもナッツやチーズなど、糖質が少ないものを食べることで凌いでいます。
病気になる前には65kg以下だった体重が、病気になってから三か月と経たずに75kg以上に増えてしまったのですが、今では70kgくらいまで減らすことができています。
睡眠リズムの異常
これも食欲と一緒で人によって出てくる症状が異なるようです。主な症状は寝つきが悪くなる(入眠障害)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、朝早くに目が覚める(早朝覚醒)、寝ても疲れが取れない(熟眠障害)、1日中眠いまたは寝ている(過眠)などです。
筆者の場合、普段は入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害がメインの症状ですが、「抑うつ状態」が酷くなったときは、逆に一日12時間以上寝てしまうなど過眠気味になることがあります。
倦怠感・疲れやすくなる
この症状はすぐに出やすく、そしてそれが原因となって他の「抑うつ状態」のトリガーとなってしまうため、ある意味一番苦労させられるものです。
筆者の自宅は74平米の2LDKなのですが、そこに掃除機をかけただけでまるでフルマラソンをしてきたかのように疲労してしまいます。
ちなみに筆者は健康な頃、1週間に2~3回ジョギングをしていて、1回あたり大体10km位を1時間前後で走っていましたが、その時をはるかに上回る疲労感であるため、体験したことのないフルマラソンと表記しました。フルマラソンを完走したことがある人にとってはそれ以上の疲労感になると思います(例えばトライアスロン完走とか)。とにかく、自分が人生で体験したことのないような疲労感に襲われるということです。
「抑うつ状態」を抱えながらもなんとか出社していた頃、片道1時間くらいの出張の日は、帰りにこのとてつもない疲労感に襲われ、帰ることが本当に辛かった記憶があります。高価な栄養ドリンクや酒を飲んで何とか騙し騙し乗り切っていましたが、今思うとあの頃、私の病気は既に限界を超えていたのだと思います。
余談ですが、このような疲労感に襲われている時にアルコールを摂取すると嘘のように疲労感が消えてしまいます。実際に疲れているわけでなく、脳のどこかが誤作動して偽りの疲れを感じているところにアルコールが入ることでその機能が麻痺するのだろうと推測できますが、そもそも「抑うつ状態」の患者にとってアルコールは基本的に禁忌ですので、くれぐれも真似をしないようにお願いします。アルコールを摂取することによって眠りが浅くなり、熟睡できなくなるため疲れが取れなくなるためです。また既に治療を始めている場合、大抵の抗うつ薬や睡眠薬は、アルコールと一緒に摂取すると効果が増強されたり、薬の依存症が出てしまったりします。
※真偽のほどは定かではありませんが、女子高生に強制わいせつを行った容疑で書類送検された元TOKIOの山口達也も双極性障害だという噂があるようです。ロケの時に酒臭かったことが度々あったと言われているのにアルコール中毒という診断がなかったということですが、双極性障害の「抑うつ状態」からくる耐えがたい疲労感を消して何とか日々の仕事をこなすために酒に溺れていたのかも知れませんね。もちろん、だからと言って彼のしたことが許されるわけではありませんし、彼を擁護するつもりはないですが。
性欲の低下
これについては筆者の場合、30歳の頃から病気になったために年齢による衰えもあると考えられるためあまり具体的な例が出せませんが、一つだけ顕著な思い出があります。
二つ目の精神科(現在の主治医)に通い始めた時、薬の種類と分量が少し変わりました。その時に処方され始めたドグマチールという抗うつ薬に「性欲減退」の副作用があり(一部を除いたほとんどの抗うつ薬にはこの副作用があります)、これを飲んでいる間、EDのような状態になってしまったことがあります。朝立ちしないのは当たり前で、それどころかいくら刺激を与えても全く勃たなくなりました。この時はそのことに絶望して自殺願望が出てきたことを今でもよく覚えています。
便秘
筆者は子供のころからお腹が弱く下痢体質でした。冷房にも弱く、夏でも会社や電車ではひざ掛けやウインドブレーカーは欠かせません。そんな筆者ですから、生まれてから「抑うつ状態」になるまで便秘というものを経験したことがありませんでした。
ところが今では、強いストレスを受けて「抑うつ状態」になると、便秘をするようになりました。便意自体は催すのですが、いざ出してみるとウサギの糞状態になります。酷い時には鉛筆よりも細い便しかでなくなることもあります。
腸は自律神経の塊であり、ストレスの影響を受けやすい臓器であるため、強いストレスを感じると腸が緊張状態になって収縮することから発生するようです。なるべくストレスの元から離れたり、ストレスを受けてしまったら早めに気分転換(筆者の場合昼寝など)したりすることが効果的です。
また、普段から食事に食物繊維(野菜、海藻)を多く取り入れることで少しでも予防になればと思っています。
まとめ
いかがだったでしょうか?一言で「抑うつ状態」と言ってしまうとなんだかあまり深刻さが伝わらないと思いますが、「抑うつ状態」の患者は、非常に多くの身体的・精神的な異常と毎日闘っているのです。それぞれの症状が複雑に絡み合って、負のスパイラルに陥りやすいのも特徴だと思います。
例)
「睡眠リズムの異常」で疲れが取れなくなり、「意欲の低下」「思考力・集中力の低下」が起こる。これによって「気分の落ち込み」「食欲の低下または増加」「性欲の低下」などが発生し「自尊心の喪失」に繋がる。最終的に「自殺願望」を訴えるようになる。ますますストレスを感じて睡眠リズムが狂う・・・。
そのため「抑うつ状態」を効率的に改善するためには、負のスパイラルを断つため、これら複数の身体的・精神的症状に同時にアプローチするべきだと個人的には思います。大半の場合は投薬が主な対処方法となりますが、それでもカバーしきれない症状については精神療法や食事療法などを併用する必要があります。
また「抑うつ状態」の改善には数か月から年単位の時間がかかります。その間、調子が良くなったと思ったらまたすぐに悪くなって・・・ということを繰り返します。調子には波があり、風邪などのように直線的に回復することはありませんから、諦めず治療に取り組み続けましょう。