理解されないうつ
今回はどちらかというとうつ病患者というより、その関係者の方をターゲットにしたブログとなります。少し昔の話ですが、7/9(月)にYahoo!Japanニュースで配信された記事を紹介します。
息子をうつで亡くした母が、労災を申請するも不認定となり、行政訴訟に踏み切って労災を認定させたという話です。
この記事の中に、うつで苦しんだ息子さんがブログに綴ったという文章が引用されていますが、この内容に非常に共感が持てたため、このブログでも取り上げたいと思いました。
〈日本人ってなんでこんなに働くのでしょうかね。わかりきってたことですが、鬱の原因は確実にお仕事ですね。何も手につかない。何もする気がしない。ただひたすら焦燥感や倦怠感、嫌悪感を薬で抑えるだけ。薬の効き目もどんどんなくなってる感じがする。困った。これからどうしよう。〉
〈自分には存在価値がない。これがどれほど痛いことなのか。これから先それと仲良く生きていける自信が全くありません。生きてるんじゃなくて死んでないだけ。何のために生きてるんですか?「死」ではなく「生きているのが無理」という闇が心を支配します。はっきり言ってその感覚が怖くて怖くて仕方がないのです。これから先が何も見えません。4年間も何をしてたんだろう。死にはしませんが。さすがに仲良く優しくしてくれた人に失礼なので。もし一人なら簡単に死んでしまいそうです。〉
〈今の仕事どう考えても一人じゃ辛いんですよね。自分はだめだ。何もない。生きてる価値が見つからない。答えはいつまでたっても見つからない。死ぬ根性もなく、消えてなくなりたいと思えど何も行動をおこせず、もう自分の手に負えないってことがわかった気がする。今の状態が本当に本当に嫌になった時、俺は死を選ぶと思う。〉
うつ病やその他の精神疾患における「抑うつ状態」による苦悩が、この3つの文章に集約されていると感じました。
記事のタイトルにも本文中にも「本当のしんどさが分かっていたら」という、母の後悔が随所に記されていますが、実際に上記3つの引用文を読んで、心にグサッと刺さった感覚になれた方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。ああ、これがまさにうつ病そのものなんだと理解できた方は何人いらっしゃるでしょうか?恐らく、実際にうつを経験したことがない方の中には、そういう方は残念ながらいらっしゃらないと思います。
少し話がそれてしまいますが、筆者のアトピー性皮膚炎の例で考えてみます。
筆者は、子供の頃から皮膚が弱く、冬場になるとすぐにあかぎれになったり、ギターを弾いてせっかく指先にできた皮膚の硬い部分がすぐに剥けてしまったりということはありましたが、湿疹やアトピー性皮膚炎とは無縁でした。
ですので、アトピー性皮膚炎の人の話を聞いても「ああ、ものすごく皮膚が痒いんだ」という程度の認識しか持っていませんでした。
しかし社会人になって3年ほどが経過した頃に一度、かなりひどい皮膚炎を経験しました。額などの薄い皮膚部分が全身に渡って真っ赤にただれ、酷い高熱を帯びていました。そして何よりも、その痒さは「痒い」なんてレベルではありません。蚊に刺されたときの痒さくらいしか体験したことがない筆者にとって、それはもはや「痒い」とは別次元の身体感覚でした。とにかくその部分の皮膚を全部剥ぎ取ってでもいいから治まって欲しい、それくらいの痒みだったのです。
当然、患部を掻き壊してしまいます。そうすると、そこから松脂のような気色悪く粘着質な液体がダラダラと垂れてくるのです。それで痒みが治まってくれれば良いのですが、残念ながら強烈な痒みは全く治まらず、しかも掻き壊してしまったために今度は痛みまで伴うようになります。
夜になると更に痒みが強まり、痒みで目が覚めるため熟睡できません。そして夜中に患部を掻き壊してしまうため、朝起きると寝具に血やら何やらといった体液が付着していることはザラでした。
結局何日か後に皮膚科に行き、ステロイド軟こうを塗り続けて半年くらいでこの劇的な症状はなんとか治まり、現在ではたまにちょっと痒くなるという「慢性湿疹」というレベルに落ち着いています。
実際のところ、アトピー性皮膚炎は半年以上症状が続く場合に「慢性」と診断されて病名が確定するため、半年で治まった筆者の場合は厳密にはアトピー性皮膚炎とは言えないのでしょう。
しかし、会社の同僚に「誰かと殴り合いでもしたのか?」と言われるほど顔中がひどくただれたあの症状のピークの頃は、間違いなく慢性のアトピー性皮膚炎の患者の方と同レベルの症状が出ていたと思います。
その時初めて、「ああ、アトピー性皮膚炎ってこんなに辛いんだ。ただ皮膚が赤くて痒いだけだって思ってたけど、『もうこんな皮膚なんていらない!剥ぎ取りたい!』って思うほど、夜も眠れなくなるほど、こんな別次元の痒みが出るなんて知らなかった」と実感したのです。
話を戻しますが、うつも結局同じ話なんだと自分は思っています。言葉や文章でいくら辛さを伝えても、うつになったことのない方にはその真の辛さは伝わらないのだと思っています。今回紹介した記事の中で母が「本当のしんどさが分かっていたら」と何度も自責の念に駆られていることが綴られていますが、それができないからこういった不幸な事件が起こってしまうのでしょう。
ですので、身近な方がうつになってしまったいう方についてはまず、「自分は、自分が実際に体験していない限り、この病気のことを真には理解できないんだ」ということを、常に念頭に置いていただきたいと思っています。
決して「~した方がいいのでは?」など、自分の価値観や物差しに基づいた発言をしないことです。ましてや「そんな病気なんか大したことない」、「そんなのは甘えだ」などという発言は、絶対にしてはいけません。よく、うつの人に「がんばれ」と言うのは禁句だということを耳にしますが、これも同じ理屈からうつの患者にとって辛いのです。
うつの辛さは、患者本人にしかわかりません。その辛さも知らない人が、あれこれと自分の意見や価値観を押し付けたり、頑張れないのに「頑張れ」などと励まされることは、うつ患者にとって毒にしかならないのです。
逆説的に、うつ患者自身も「自分の辛さはうつになったことのない人には真に理解してもらえない」ということを、どこか頭の片隅に置いておく方がよいように感じます。そうすることで、周りの人の何気ない一言や、心配からくる(大体の場合余計な)アドバイスに対して、深く傷つかなくて済みます。
ただし、あまりにこの信念が強すぎると、今度は人を頼ることができなくなってしまいます。うつは一人で治すのは難しい病気です。何か腹の立つことを言われたときだけ都合よくこの考えを思い出し、それ以外の特にトラブルでない場合は、人に上手く頼る方法を見つけるのが、治療への第一歩になる気がしています。
ラミクタールで不眠?
筆者は1か月ほど前からラミクタールを飲み始めています。
セカンドオピニオンの結果も踏まえ、双極性障害II型が確定したというにも関わらず、処方される薬は適応障害とだけ言われていたときと変わらなかったため、自分で調べて「飲みたい」とお願いし、やっと処方してもらえました。
ラミクタールの効果について
このラミクタールは気分安定剤に分類される薬で、元々は難治性転換の治療薬として作られた薬ですが、その後双極性障害II型の抑うつ状態に対して効果があると判明しました。抗躁効果はさほど高くないため、双極性障害II型の中でも抑うつ状態が長い傾向にある患者に向いている薬だということです。また、気分安定剤の中では唯一妊娠への影響が少ないことも分かっており、妊婦さんに処方されることもあるそうです。
筆者の場合、2012年に1年ほど軽躁状態と思われる症状が続きましたが、それ以後は調子のよい日の方がはるかに少なく、基本的には抑うつ状態を示すことが多いため、自分にピッタリの薬だと思いました。
ラミクタールの副作用
ラミクタールは基本的に安全性が高い薬だとされています。しかし、副作用がないわけではありません。ラミクタールの副作用で一番怖いのは薬疹であり、その中で最も有名なのは「スティーブンスジョンソン症候群」です。
この病気は、体中の皮膚や粘膜がやられ、発熱、粘膜症状(目の充血、口唇びらん、咽頭痛など)、湿疹などの症状がでます。ラミクタールを飲み始めてから2週間~1か月程度で出ることが多いそうです。ラミクタールが発売された当初、この薬の副作用と思われる薬疹で16人もの方が亡くなりましたが、いずれも
- 投与初期から多量に処方していた
- 薬疹が認められてからも服用を続けていた
など不適切な投与が行われていたということです。現在は、この薬の副作用や処方ガイドラインが製薬会社などから情報発信されており、その後死亡者は出ていません。
ただし、薬疹以外でもラミクタールの副作用は少なからず存在します。自分が処方してもらうときに薬局で貰う説明書には以下のように記されています。
めまい、眠気、頭痛、眠れない、不安、震え、怒りっぽい、動きが鈍い、無いものが見える、発疹、吐き気、下痢、貧血、かすみ目、目が充血、目やにが出る、発熱、疲れる、体が痛む など
この中で比較的現れることが多いのは眠気や頭痛のようですが、筆者の場合は最近「眠れない(不眠)」の副作用が出ているように思われます。
今週の月曜から処方量を25mg→50mgに増やしたのですが、そのタイミングからだんだんと中途覚醒が多くなり、またその程度も悪くなっています。元々ラミクタールを飲み始める前から毎日1回程度は中途覚醒していたのですが、今週は中途覚醒の回数が確実に増えています。
今朝に関しては0時頃に就寝したのですが3時くらいに一度覚醒してしまいました。それから起床するまでの間にも3~4回ほど目が覚めてしまい、熟睡感がまったくありません。
インターネットで調べてみたところ、5%くらいの人が不眠を訴えることがあるそうでした。
薬疹以外の副作用の場合は、体が慣れてきたら治まることもあるようなので様子を見る、という対応をする場合もあるようですが、念のためこれから精神科に行って相談してこようかと思います。
【7/21 追記】
精神科で相談したところ、夕食後に50mg服用していたのを朝食後に50mg服用に変更して、ひとまず様子を見ることになりました。また何か変化があれば追記しようと思います。
「体調の波」ってどんな形?
うつのような気分障害では、よく体調や気分といった体調に「波がある」という表現をします。双極性障害はかつて躁うつ病と呼ばれていた通り、躁状態とうつ状態を繰り返す病気のため、特にこの「体調の波」に苦しむことになります。
ところで話は変わりますが、あなたは「波」と聞いてどのような形状をイメージしましたか?海岸に押し寄せる波でしょうか?もし理数系が得意な方なら、三角関数のサインカーブのようによりリズムが一定で規則正しい波を思い描いたかも知れませんね。
私もそうですが、普通「波」と聞いたら、大体このような曲線で構成されたイメージを思い浮かべるのではないでしょうか?曲線で構成されているということは、波の高さが変わるときには必ず「上がり始め」もしくは「下がり始め」が存在することになります。
この前提条件に基づいて「体調の波」という表現について考えると、波は滑らかな曲線で構成されていますから、ある日調子が悪くなるにしても、悪くなる直前には調子が上げ止まって下がる瞬間が必ず存在するということになります。この場合、調子が変化する近辺では曲線の傾きが極端に変わるため『そろそろ体調が上り調子になりそうだ』とか、逆に『そろそろ体調が下り坂に差し掛かりそうだ』とか気付けそうなものです。
しかし残念ながら、私の体感ではそのような調子の変換点に気付けたことの方が圧倒的に少ないです。特に調子が良い状態から悪い状態になるときには、大抵の場合突然です。調子が数週間~数か月安定していたのに、ある日突然ガクッとどん底に落ちてしまいます。明日は調子が悪くなりそうだとか、数時間後に調子が悪くなりそうだとか、そんな兆候を感じられることはほとんどありません。調子が悪くなる時は突然来るのです。
この事実から、私は「体調の波」をより実態に即した表現にするならば、「体調の株価チャート」の方がしっくりくるのではないかと思っています。
「体調の株価チャート」
これは本ブログ執筆時点での過去6か月(2018/1/15~2018/7/13)分の日経平均株価の値動きを表したチャートです。このようなチャートの事をローソク足チャートと呼びますが、ここは投資について指南するブロクではありませんので、ローソク足チャートの詳細な説明は割愛します。今はただ単純に『規則性のない波だなあ』と思いながら見ていただければ十分です。
例えば1月中旬頃には24,000円だった株価が、2月頃に21,000円まで急落していますね。この頃はブログ執筆時点のようにトランプ大統領が中国に対して貿易戦争を仕掛けることを宣言していたわけではありません。強いて言えばこの頃は『アメリカは北朝鮮に対して戦争を仕掛ける気ではないか?』という懸念があったくらいですが、株価が急落した頃にその懸念がより強くなるような特別な出来事があったわけでもありません。さして明らかな理由もないのに株価が下落したのです。
その後の値動きも微妙ですよね。3月中旬までは底辺付近で上がったり下がったりを繰り返し、4月から5月にかけてようやく回復傾向になりましたが、6月に入ってまた値動きが不安定になりました(これは前述したトランプ大統領の貿易戦争が原因です)。
精神疾患のブログで何を延々と株式の話をしているんだとそろそろお叱りを受けそうですが、この株価チャートの形って筆者が調子を崩すときの典型的な「体調の波」とそっくりなのです。重要なのは
- 波の形状に規則性がない(どこで上がるかまたは下がるか予測しにくい)
- 波の形状に連続性がない(ある日突然急騰したり暴落したりする)
- 一度暴落するとしばらく波が安定しない
- 回復するときも順調な右肩上がりになることはなく、途中で上下を繰り返し、しかも元の値に戻るまでに相当の時間を要する
という点です。気分障害をお持ちの方は何となく実感として理解していただけるのではないかと思います。もし気分障害をお持ちではない方についても、『ああ、体調の波って不規則でしかも予測しにくいんだ』と認識していただけるだけでも、気分障害の患者の方と接するときに、だいぶ違う心持ちで接していただくことができるようになるのではないでしょうか?そういった期待を込めて、このブログを執筆しています。
「体調の株価チャート」の今後を予測し、対処する
とはいえ、『「体調の波」は株価チャートみたいなもので将来が予測できません。はい、終わり。』というのも困りますよね。
筆者が闘病するにあたってよく参考にしている書籍である「双極性障がい(躁うつ病)と共に生きる」の執筆者である加藤伸輔さんという方は一日に3回、その時の調子を「-5~+5」で記録するようにしているそうです。
双極性障がいと共に生きる 病と上手につき合い幸せで楽しい人生をおくるコツ / 加藤伸輔 【本】 |
-5は酷いうつ状態、+5は酷い躁状態だそうですが、そこに至るまでの間に±3くらいを記録してしまった場合、何らかの対策(頓服薬を飲む、うつ/躁の時に陥りがちな行動と逆に行動をとるなど)を施すようにして調子を保っているということです。他にも自分に起こったわずかな変化(イライラ、言葉遣い、入浴したくなくなる、など)を調子の変換点だと認識することで、調子の急騰または暴落がある程度防げるようになるようです。
また、先日のブログで紹介した双極性障害ナレッジベースサイト「BIPOGRAPHY」にも予防策がいくつか記載されていますので、双極性障害の方は参考になる情報があるかも知れません。
筆者はまだどの身体的変化がどういった調子の変化に繋がるか、というところまでは分析しきれていないのが現状ですが、例えば「なぜか特に理由もないのにイライラしているな」と気づいたときには、少なくとも状態が悪くなっていることが明らかなため、散歩に出かける、カラオケに行く、昼寝をするなど、考えうる対処を矢継ぎ早に打つようにしています。
こういった自分に生じた問題を解決するために取る行動を、認知行動療法では「コーピング」と呼びます。調子を安定させるためには「どれだけ多くのコーピングのレパートリーを持っているか(質より量)」が重要なのだそうです。
筆者の例で言えば、まず散歩してみて、それでもイライラが治まらなければカラオケに行ってみて、それでもダメなら昼寝してしまうという感じで、問題を解消することができる適切なコーピングを見つけるまでいろいろと試すことができるからです。そして昼寝してもダメならこれはもう自分の手には負えないということで、通院するかカウンセラーに相談するということになります。
ちなみに認知行動療法的にはリストカット、過剰服薬(オーバードース)、自殺などもコーピングにあたります。苦しい現状を変えるために行う行為という意味では散歩やカラオケと変わらないからです。ただし、その代償として怪我、入院、最悪死という結果を招くことになり、当然良いコーピングとはみなされていません。
コーピングレパートリーに乏しいと、自身に生じた問題に対処する術がないため、こういった極端なコーピングに走りやすいということです。そのためにも、とにかくたくさんのコーピングレパートリーを持つことが精神安定のために重要なのです。
「溜まっている」ではなく「取っておく」
抑うつ状態が強い時は、倦怠感、集中力の欠如、疲労感などの症状のため、やりたい事がやりたいタイミングでできないことが多くなります。そうすると、大抵のことは必然的に「やりたいタイミング」ではなく、体調が比較的安定している「やれるタイミング」でしかできません。簡単な例を挙げれば部屋に掃除機をかけること。たったそれだけのことですら、体調が安定していないときに無理やりに実行すると、その代償としてしばらく起き上がれないくらいの強烈な疲労感に暫く苛まされることがあります。
家事一つ取ってもこの有様なので、趣味に関しては何をかいわんや、です。筆者の場合、健康な頃はゲーム、アニメ、音楽鑑賞、写真撮影、ゴルフ、ジョギングなど人並みに趣味を楽しんでいましたが、精神疾患を患ってからはほとんどまともに楽しめていません。
プレイステーション4で大好きなシリーズの新作ゲームを買って来ても、画面の繊細さ、目まぐるしく変化する状況についてゆけず、体力がものすごい勢いで削られていくのがわかります。結果、細かな休憩が必要になってしまってまったくのめり込めませんし、クリアなんて程遠いものです。
アニメもどんどん録画したタイトルが溜まっていきますが、場合によっては1クール分(3ヵ月で12~13話。1話辺り約30分)を一度も見ないまま放置するなどということもザラです。音楽については、元々アップテンポな曲が好きなのですが、そういう曲を体調の悪いときに聴くと音楽ではなく雑音にしか感じられず、余計に気分が悪くなります。
インドア系の趣味ですらこの調子なのですから、残りのアウトドア系の趣味については説明する必要すらないでしょう。もっともうつとセロトニンの回でも述べたとおり、軽い運動はセロトニンの分泌を促し健康増進の効果がありますが、激しい運動は逆効果となります。そのためジョギングとゴルフ(筆者は下手くそなのでしょっちゅうラフに打ち込んでは走ってを繰り返してしまうのです)についてはドクターストップがかかっています。
さて、そんな筆者でも体調安定期になるとゲームはやりたくなるし、アニメも見ようかなという気になるし、音楽も聴きたくなってくる。ちょっとどこかに出かけて綺麗な写真だって撮りたくなります。ただし双極性障害II型の特徴には、うつ状態が長く、躁状態は短いというものがあります。必然的に体調の良いときは短く、やりたいと思ったことをすべて消化することができず、どんどんと積み重なっていきます。この状態は精神衛生上、非常によろしくありません。体調さえ良ければ全部消化できるのにと思ってしまい、少しでも体調が良くなると無理してすべてをやろうとしてしまって体力を使い切り、また抑うつ状態に戻ってしまうからです。
そんなことを繰り返しているうちに、カウンセラーの先生からさすがの一言をいただきました。
「やりたいことは溜まっているのではなく、取っておいてあるのですよ。」
なるほど。楽しみは後に取っておくという考え方にするだけでも、だいぶ気分が楽になります。
TMS療法について
筆者は適応障害、双極性障害、パーソナリティ障害を患ってから(実際のところ、パーソナリティ障害は健康な頃はその芽を持っている状態でしたが、適応障害と双極性障害が発症したことによって併発することになりました)、かれこれ6年前後経ちます。何十年も精神疾患を患っている方からすれば、まだまだ大した期間ではないとお叱りをいただいてしまうかもしれませんが、それでもこの6年間の間に多くのものを失い、そして今後の人生にも希望が持てない状態です。時折、自分は何のために生きているんだろう、このまま生き続けて何かいいことがあるのだろうか、そう自問自答することも多くなりました。しかし元々負けず嫌いな気質もあってか『いつの日か絶対に完治させてやる』という気持ちも、抑うつ状態が強くなったときなどに萎えることはあるにせよ、なんとか持ち続けることができています。今回は、そんな「なんとか治そう」という気持ちで挑んだ1つの新しい治療法について、紹介したいと思います。
TMS療法
TMS療法のTMSとは、Transcranial Magnetic Stimulationの略で、日本語だと経頭蓋磁気刺激法(けいとうがいじきしげきほう)と翻訳されます。
うつ病のTMS療法 [ 鬼頭伸輔 ] |
治す!うつ病、最新治療 薬づけからの脱却 [ リーダーズノート株式会社 ] |
何やら難しい名前ですが、簡単に説明すると、これはうつなどの病気で脳の活動が弱った部分に外部から直接磁力を当てて、脳を強制的に活性化させる治療法です。日本では2017年9月に医療機器として厚生労働省から薬事承認され、2018年4月から保険で治療が受けられるようになった最新医療です。副作用が少なく、安全性も高いということですが、何より薬なしでうつが治る可能性があるという画期的な治療方法なのです。ただし、寛容率は約3割強とあまり高くはありません。適応疾患としては以下のような病気が挙げられています(※1)。
うつ病、双極性障害(躁うつ病)、不安障害、パニック障害、強迫性障害、PTSD(心的外傷ストレス障害)、慢性疼痛、パーキンソン病、幻聴など
※1:TMS療法の適用疾患については現在も研究の道半ばだそうで、上記の疾患については検証の結果「効果が報告されている」という程度の精度なのだそうです。Wikipediaやいろいろな病院のサイトを調べると、適用疾患として載っていたり載っていなかったりするものがあるため、その点は留意する必要があるでしょう。
筆者は、今年(2018年)の5月から人生で3度目の休職を余儀なくされ、このままでは本当に職を失いかねないという危機感から、このTMS療法が受けられる病院を探し、そして実際に試してみました。過去のブログで、2つの精神科に同時に通っていると書きましたが、実はそれはこのTMS治療を受けるためだったのです。TMS治療は、うまくいけば10回~30回程で病気が寛容状態となり、それ以後は病気が再発しない限り、通院の必要がなくなります。ただし、TMS治療は基本的に定期的に受けないといけない治療法で、特に最初のうちは週に何回(3日以上)も受けないといけません。あまり感覚が空いてしまうと効果がないそうです。そのため、最大でもわずか2~3月しか通わないかも知れず、しかも片道1時間以上かかる病院にわざわざ紹介状を書いてもらって転院するのも微妙かと思い、主治医にはTMS療法を受けにいくと断った上で、別途その病院に通っていました。
TMS療法の概要ですが、まず初診の際に脳の隅々に磁力を当てて指や腕が自然と反応する部位を探し(そこが弱った部位なのだそうです)、その部位が見つかったら、後はそこに集中的に磁力を当てていくという進め方となります。最初のうちは痛みがする場合があります(筆者も最初は脳の中を直接ハンマーでたたかれているような痛みを感じました)。その場合出力する磁力を弱め、痛みを感じない強さでしばらく脳を慣らします。慣れてくると、磁力を強めても痛みを感じなくなってきます(筆者も2回目以降は痛みを感じなくなりました)。
前述した通り、最初のうちは1週間に何回も受けないといけないので、仕事をしながらという方はこの治療を受けるのは難しいかも知れません。筆者のように休職、あるいは退職してしまったという方で、かつ長年薬を飲んでいるけれども一向に良くならないという方はダメで元々、という感覚で試してみる価値はあるかと思います。残念ながら、筆者の場合は10回ほど試してみたのですが劇的な効果は得られなかったため、現在は先生との相談の末、治療を終了しています。
また、TMS療法は今年から保険が適用できるようになったとは書きましたが、それでもいくつかの病院のサイトを見る限り1回あたり1万円前後するところが多く、料金は決して安くありません(ただし保険認可前は施術できる病院がほとんどなく、数百万程度かかったそうなので、これでも環境は改善されているようですが)。筆者はいろいろな病院を調べ、一番料金が安く、何とか通える範囲にあった神田のBesliクリニックというところに通っていました。
ここであれば1回あたりの料金は4000円程度です。またこの病院の良い所は、TMS療法に限らず、カウンセリング、セロトニンセラピー、タッピングセラピーetc...といった、投薬以外の様々な治療法が提供できるところでしょうか。月に1回ですが、認知行動療法のマインドフルネスの講座を開いたりなど、とにかく治療方法が多彩です。筆者の場合も、この病院に通院を始めた時は抑うつ状態とイライラがずっと続いていたのですが、先生に勧められて受けたタッピングセラピーの後、ぴたりとイライラが止まるという効果を実感できました。TMS療法に効果が見られなかったのは残念でしたが、この病院に来たこと自体は、貴重なセカンドオピニオンを貰えたことや、タッピングセラピーという新たなアプローチを知ることができたこともあり、決して無駄ではなかったと思っています。
ただ1点だけ注意点を挙げるとすれば、院長の先生はとても気さくな方なのですが、人によってはフランクに見えすぎて不快に思う方がいらっしゃるかもしれないなあ、という点でしょうか。この点に関してだけは、その人の物のとらえ方と相性次第なので如何ともし難いですね。
まとめ
今回はTMS療法という、薬に頼らない治療法について紹介しました。また、本ブログを執筆時点で非常に安価にTMS療法を受けられる病院についても紹介しました。ただ、インターネットの検索結果を見る限り、昨年に比べTMS療法を受けられる病院は確実に増えていますので、筆者が紹介した病院以外にも身近なところで治療が受けられるかも知れません。
それでもまだ施術できる病院はあまり多くないこと、時間とお金に余裕がある人に限られてしまうということ、寛容率が3割強と成功率は高くないことなど、数々のデメリットはありますが、それでも藁をも掴む思いの方は、一度試してみてはいかがでしょうか?
医者とカウンセラー
精神疾患を抱えてから、最初に通院した病院の先生が非常に信頼できる人で、ずっと通い続けている方って、一体どれくらいいらっしゃるのでしょうか?もしいらっしゃったとしたら、その方は幸運だと思います。
なぜかというと、いろいろな精神疾患関連の書籍、またはインターネット上の情報を探すと「転院」「セカンドオピニオン」という単語がうじゃうじゃと出てきます。また、会社の同僚でやはり精神疾患を抱えてしまった人に質問してみたところ、やはり医者と馬が合わず転院を繰り返しているそうです。
筆者もこれまでに三つの精神科への通院を経験しています。一つ目の病院では、先生に「自分は何の病気なのでしょうか?」「今飲んでいる薬は何なのでしょうか?」という質問をしても、まともに答えてくれませんでした。家族や親戚の高い口コミで通院を始めた知る人ぞ知る病院だったらしいのですが、曖昧な回答に不信をいただいたこと、通院に片道1時間以上かかること、保険適用外のために毎月高額な医療費がかかることなどの理由が重なり、結局転院することにしました。
糖尿病やがんなど身体的な病気で、このように医者に不信を抱いて転院を繰り返すというケースは、あるのかも知れませんがあまり聞いたことはありません。統計が存在するわけではありませんので断言はできませんが、やはり精神疾患の方が転院を繰り返すことが多いのではないかと思います。
なぜ転院を繰り返すことになるのか
人それぞれ、いろいろなケースがあると思います。よく見かける理由としては「医者が話を聞いてくれない」「医者の言動が気に食わない」「医者の言うことを聞いているのに全然良くならない」などでしょうか。筆者個人の体験を踏まえた結論としては
「医者はカウンセラーではない(場合が多い)にも関わらず、患者は医者に対してカウンセリング(的なもの)を期待している」
というミスマッチが起きていることが、原因の一つとして挙げられるのではないかと思っています。要約すると「患者は精神疾患を治す為に必要な指導の一切を医者に求めることがあるが、医者は全ての要望に応えられない」ということです。今回は、この推測が正しいと仮定した上でのブログとなります。
医者とは
医者(医師)の定義は、医師法の第一条に次のように定められています。
医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。
「医療」および「保健指導」をすることが医者の務めだと法律で決まっているのです。したがって、精神疾患を抱えた患者が医者に対してカウンセリング、またはそれに近い何らかの指導を仰ぐことは問題ないように思えます。しかし、保健指導とは
医師・保健師・看護師・栄養士などの医療者が、生活習慣病などの病気の予防や健康維持・増進を目的として、運動・食事のほか睡眠・飲酒・喫煙などの生活習慣について改善の助言を行うこと
とされています。医者が行ってくれる保健指導は生活習慣に限られているのです。一方で、カウンセリングの定義は以下の通りです。
依頼者の抱える問題・悩みなどに対し、専門的な知識や技術を用いて行われる相談援助のこと
カウンセリングは特に相談内容に縛りがなく、保健指導の範疇を超えている場合が多いわけですね。
このような保健指導とカウンセリングのミスマッチは、医療法が施行された昭和23年には今ほど多くの精神疾患の患者が存在せず、基本的に内科および外科といった身体的な病気に対して有効な生活習慣への助言のみを保健指導として定義してしまい、その法律が今もそのまま残っていることが原因ではないかと推測されます。
そして近代社会になって精神疾患の患者が急激に増加し、また精神疾患の患者に対しては生活習慣以上に心理面で様々な援助が必要なことがわかってきたため、医者とは別にカウンセラーという仕事が脚光を浴びてきたのではないでしょうか。
カウンセラーとは
それでは、カウンセラーとはどういう方のことを指すのでしょうか?一般的に、カウンセラーとは、カウンセリングを行うための資質や技量を備えていることを証明するための試験や資格に合格した方のことです。
その資格は「ユング派分析家国際資格」という大半の人が聞いたことのないと思られる超難関(面接が英語なのだそうです)の国際資格から「臨床心理士」という、こちらは恐らく大半の方が一度は耳にしたことがあるものまで、実は様々な種類が存在します。
医者はカウンセラーではない(ことが多い)
ここまでの話で大体の読者の方は察しがついていると思いますが、精神科の医者の方々は医師免許は持っていますが、カウンセラーとしての資格も同時に持っていることは稀です。
筆者は以前、医療費控除の確定申告をするにあたって税務署に確認したことがあるのですが、「医師免許を持っていないカウンセラーが行ったカウンセリング費用は医療費として認められない」と回答されたことがあります(自治体によってどう扱われるかは異なるようですが)。
このような事実から導き出される結論は、医者とカウンセラーは全くの別物だということです。患者が生活習慣の範疇を超えた保健指導を医者に求めても医者はそれに応えられないし、そもそもそれは医療行為(=保健指導)ではないということです。
「医者が話を聞いてくれない」と普段からよく不満を抱かれている方については、よく自分の相談内容を思い返してみて下さい。ご自分の相談内容が、生活習慣の範疇を超えた心の悩み(例えば人間関係がうまくいかないとか)ばかりになっていないでしょうか?残酷な表現であることを承知で書きますが、カウンセラーとしての資格を持たない医者にとって、患者の心の悩みを聞くことは必須ではなく、また治療の対象でもないということなのです。
もちろん、治療に多大な支障をきたすほど患者の相談内容が深刻な場合は、医者もある程度話を聞いてくれるとは思います。しかしそれは、彼らの専門分野ではないのです。筆者は恥ずかしながらこの事実に気づくまでの間、なぜ精神科の医者なのに親身になって話を聞いてくれないのか、とイライラしたことが何度もありました。
面倒でも心の相談はカウンセラーに
もしあなた、またはあなたの身近な人が精神疾患で苦しみ、心の悩みを抱えているようであれば、カウンセラーを受診することをお勧めします。精神科の医者は、薬を処方し、生活習慣については指導してくれますが、心の悩みは聞いてくれません。
筆者は適応障害、双極性障害II型の他にパーソナリティ障害を抱えており、非常に生きづらさを感じていましたが、カウンセリングに行くことで徐々に心の苦しみから解放されつつあることを実感できています。医者はあくまで薬を処方し、生活習慣についてアドバイスをしてくれる人であって、それ以上の相談に乗ってくれる人ではないと割り切り、心の悩みはカウンセラーに相談しましょう。
本来であれば、医者の方から『心の悩みについては私には相談に乗ってあげることができないが、信頼できるカウンセラーを紹介することはできるので、よかったらそちらで一度話をしてみてはどうでしょうか』といったように、カウンセラーとの協力体制を築き、患者にカウンセリングを促すべきではないかとも思いますが。
補足
今回は、精神疾患の患者が転院を繰り返す理由として
「医者はカウンセラーではない(場合が多い)にも関わらず、患者は医者に対してカウンセリング(的なもの)を期待している」
という前提の元にその原因と対処法について論じましたが、もちろんそれ以外の理由で医者が信用できないというケースもあるでしょう。例えば医者の言うことをきちんと聞いて、薬も毎日服用しているのに一向に良くならないケースなどです。
このような場合は、医者の診断や治療方針が間違っているという可能性も否定できませんので、自分が納得できるまで、あるいは相談の余地がなくなるまで、その医者と議論をするべきだと思います。その上で、こちらが納得できる回答をしてもらえなかったり、そもそも話を聞いてくれなかったりした場合は、別の医者にセカンドオピニオンを仰いだり、転院するといった対策も視野に入れるべきでしょう。
双極性障害ナレッジベースサイト「BIPOGRAPHY」について
6/26のブログおよび6/27のブログにて、双極性障害II型と確定診断されることの難しさと、双極性障害II型特有のつらさについて説明しました。
しかし、生活環境は人それぞれです。いつまで経っても確定診断を貰えないという方もいらっしゃると思います。また確定診断を貰ったとしても、最適な治療を受けられなかったり、治療はしているけれどもそれでも気分の波が抑えられず病気に振り回され続けたり、という方もいらっしゃるでしょう。そんな人の役に立ちそうなサイトを見つけましたので、ここで紹介したいと思います。
双極性障害ナレッジベースサイト「BIPOGRAPHY」
双極性障害の患者の方々が体験や対策を共有しあうサイトです。単にgoogleなどの検索サイトで「双極性障害」とだけ入力しても上位にヒットしないため、このサイトの存在をご存知ない方もいらっしゃるのではないでしょうか(筆者も最近偶然見つけました)。
もしあなたまたはあなたの身近な人が双極性障害であったり、もしくは双極性障害の疑いがある場合に、診断、治療、日々気を付けるべきことなど様々なことのヒントを得られるかも知れません。
うつなどと違って認知度が高いとは言えず、まだまだ謎多き病気である双極性障害患者にとって、こういう情報共有の場があるということはものすごく良いことだと筆者は思います。筆者もまだこのサイトにあるすべてのナレッジを参照できたわけではないのですが、もし何か自分の体験で役立ちそうなものがあったら、情報を提供していきたいなと考えています。